3月21日(祝) 午後14時から18時まで、『哲学の誕生』(ちくま文庫 2017 『哲学者の誕生』2005 ちくま新書)の読者合評会を行いました。
著者の納富信留先生に前回(2015年 岩波新書 『プラトンとの哲学』)に続いて、文庫版で再刊した本著の合評会は可能かお聞きしたところ、快諾を頂き、2018年12月末から1月初旬にかけて日時を決め、場所として東京大学哲学研究室を使えることとなった。年度末の大変忙しい時期に会を行えることとなり、納富信留先生にはまず感謝の気持ちを書き残しておきたいと思う。
参加希望の方からは、2月初旬までに、質問や確認事項をそれぞれ提出してもらい、私のほうで進行表とレジュメをまとめることにした。また、初学者の方や学生、高校生の参加者からは、1章または6章について3分程度最初に発言してもらう旨を打ち合わせで決定し、順番は3月15日頃に決定した。(第〇章 〇頁 何について〜といったように)







当日は、東京大学本郷キャンパスの正門に集合し、哲学研究室へ。
朝は小雨が降っていたものの、昼過ぎには晴れ、本郷キャンパス内工学部側の桜などは3分咲きになりはじめていた。(作成した資料や、参考文献などを多数持っているので、晴れはありがたいものです)





以下、当日のことを少し記録にしておきたいと思っています。


14時に開始。まず、納富先生から本書「哲学の誕生」の意図をお話していただいた。
納富先生は、プラトン哲学、対話篇についての入門書をこれまで3冊執筆している。

NHK出版 『プラトン』
ちくま新書 『哲学者の誕生』 ソクラテスをめぐる人々
岩波書店 『プラトンとの哲学』 
ちくま文庫 『哲学の誕生』(前掲の新書版新装版 2017年 補論含)

この3冊はどれも入門書として書かれたものだが、NHK出版「プラトン」と「哲学の誕生」はソクラテスに焦点をあてているものとなる。
また5月に新訳での『パイドン』が光文社古典新訳文庫で刊行されることにも触れてお話いただいた。

比較的哲学という学問に対してベテランの方から初学者、高校生まで参加者がいるということで愉しみにしてきたとコメントをいただき、現時点での訂正表(表記)も示してくれました。

前半部は高校生5名、大学生3名、大学院生2名、初学者1名のかたから発言いただいた。
高校2年生の女子Aさんから順番に質問や確認、感想などを発言してもらったのだが、彼ら高校生らの内容にはプラトンや古代ギリシア、ピタゴラス派とのかかわり、数学とのかかわり、近代以前の哲学と日本の受容もあり、多くのテーマの一端が示されたので、納富先生がそれらに各々コメントや解説を加えていってくださった。

例えば、6章の中心は明治期以降の日本の受容とその問題が扱われるが、鎖国前の状況では、16世紀、17世紀にはイエズス会を通じてアリストテレスが学問として一部は伝わっていたことなども含まれる。
19世紀には医学(蘭学)を通じても一部学問が入ってきているが、思想哲学に関するものは限定的である。
またキュニコス派について、ソクラテスの問い(魂(プシュケー)のあり方、よく生きるとは何か、正しいとは何か
、ソクラテスとプラトンをセットで考えないと哲学、フィロソフィアは浮かび上がらない。1対1あるいは1対少数者との対話を対話篇として残した意味をめぐって、説明やコメントを加えていただいた。

プラトン対話篇に対しては、どのような読者層を想定されるかということについては、比較的一般的な読者を想定してるものと「メノン」「ゴルギアス」などと、プラトンの学園であるアカデメイアで取り上げられたであろう後期対話篇「ティマイオス」「ソフィスト」などはやや性質が異なることなども解説して頂いた。

またデルフォイ神託、人の生死と人を超えたものとして、「パイドン」では二つの異なるものを合致させて問われていること、対話篇(書かれたもの/話すということ)の意味などを巡り、P.3815L、P.4111Lが取り上げられた。

P,308 ソクラテスが生涯人々と対話し〜、ソクラテスが何を知りたかったのか。善、美、正義などについてことがらに迫る営みをプラトンが書き残すということはどういうことか、記憶と想起説などもテーマにあがった。P.316

ピュタゴラス派については、彼らが何を求めていたのかということ、数の神秘性について(ピタゴラス派は4,9を正義に措くとか、結婚は2.3で6とかである)数は秩序を表しており、比やバランス、音楽といったように美しい秩序を念頭においており、これは後のガリレオやケプラー、デカルトといった天文学にも引き継がれている。
(私見だが15世紀のルネサンス音楽もほぼこの世界観である)

そこからイデア論や存在論への言及にもつながり、P.125の記憶についても解説していただいた。

ソフィストの知とは、外から注入するものである。
哲学者、ソクラテスから始まりプラトンが行うのは、自らがもともと持つものを活かすことである。

ロゴスについての問いについては、メタファーとしてではなく魂(プシュケー 気息)を活かしてくれるものがロゴスである、ということ。(P.39)
また『プラトンとの哲学』(岩波)も併読してきた高校生からはP.16をとりあげた発言もあった。

人間的な知とは何か、
相対論に対しての超越レベルの観点
哲学で登場する「神」という言葉のついて
魂(プシュケー)の変容
不知の自覚

当日の会の進行をしていたので、メモが完全ではないが、このように前半部だけでも多くのプラトン(ソクラテス)哲学に対するテーマとして挙げられたと思う。







休憩の後、後半部は主に、知の問題を扱った。



不知の問題とクリティアスの問題では、参加者のHさんが納富先生の論文クリティアスについてと、カルミデスにおける問題を提示された。(本文ではp288-9)
思考、ソーフロシュネー(思慮)を持つこととディアレクティケー(分割法)
先生は解説を加えられながら、加藤信朗先生の「初期ギリシア哲学」のカルミデスについても触れて紹介。

Tさんからはアルキビアデスに関して3点。
後半部については自分の質問も含みもう少し記述します。先に言及しておくと、今回は21名の参加者でした。
(やむを得ず直前に欠席になった方も含めて希望者含めると26名前後が参加を希望していたのでリストを作成)










総合図書館前の広場。





ピレボス、テアイテトスと来て無知 知識 適度さについて踏まえ、ソフィストとフィロソフィアの差異、近代日本で導入され標語化してしまっている 無知の知 についてのメモを作成
クザーヌスの否定神学の文脈がドイツ語経由で導入され、その後東北大学教育学の権威主義から標語化した。諸学術と知識、適正判断が乖離しているならば、果たして可能性や目的を正しく設定できるのか?
無知の知の標語は日本のみで一般に流布
認識にも知識にも距離が生じている

学びながら、読書する、自分なりに問題点を出す、それについて調べる考える、言語化する、論理に照らし合わせてみる、ということを保持しながらいわゆる若年者として高校生が置かれる葛藤のようなものに何らか補助的な役割が果たせないか、とは常に考えてます






以下作成資料より会の概要
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『哲学の誕生』 読者合評会(第2回合評会)

 

  テキスト:納富 信留『哲学の誕生』(筑摩書房ちくま文庫 2017 

        

筑摩書房 : http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480097941/

(ちくま新書『哲学者の誕生』 2005

http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480062499/ 

 

 

東京大学 UTokyo Biblioplaza : 

https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/ja/C_00027.html  

(英語ページ)https://www.u-tokyo.ac.jp/biblioplaza/en/C_00027.html 

 

 

 

参考: クリティアス 政治哲学の原点 (西洋古典学研究1998 46 p. 44-55 ) 納富信留 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jclst/46/0/46_KJ00005743892/_pdf/-char/ja 

 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jclst/46/0/46_KJ00005743892/_article/-char/ja/ 

10mTVオピニオン(有識者による110分で学ぶ教養動画) 「プラトンの哲学を読む(1-6)」 (2018

https://10mtv.jp/pc/content/lecturer_detail.php?lecturer_id=183

 

 場所:東京大学 本郷キャンパス  法文2号館 哲学研究室

https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/campus-guide/map01_02.html

http://www.l.u-tokyo.ac.jp/laboratory/database/1.html

講師:納富信留先生 (東京大学大学院 人文社会系研究科教授 (ケンブリッジ大学大学院古典学部Ph.D.取得)

 

日時 2019321日(祝) 14時から17 (18時まで講話茶話で利用可)



<前半部> 前述

<後半部>15時から1610分  参加者による提題  質問 読後確認など

Hさん:「知」と「不知」について〜「カルミデス」に関連して (クリティアス および不知/無知 )別記資料あり

Tさん:第5章 アルキビアデスの誘惑 アルキビアデスの転落とソクラテスからの影響をどのように捉えるべきか?『饗宴』の賛美演説、「アルキビアデスにとって、ソクラテスとの関係はつねに両義的であった」(p259-261

『アルキビアデスI』でなぜダイモーンはソクラテスに会話を許したのか?(p254

「賢いアルキビアデスは、ソクラテスの危険をもっとも熟知したがゆえに、その地場から逃れることで男子としての生き方につき進む」(p263)、「政治と哲学の葛藤」(p264)、知と行動の関係

 

S.IZ: 第6章 無知の知を退けてp.312-314 日本の受容と今日的な問題 別記資料

(“無知の知”,”厳しい法でも法である”→悪法も法なりの標語化 誤解) 

フィロソフィアの本来的な意味 愛智/希賢学/希哲学 諸学問(ex.テアイテトス Philosophiaの原語)

5章 ソクラテス以前(初期ギリシア哲学)自然哲学との接続部分確認p.53-p.60 自然学/倫理学 巨人中心史観からの脱却 人文主義(3科)以外のプラトン対話篇について キケロ以降とプラトン 

3章:対話篇の伝統について(前1世紀〜P.99-101 19世紀以降対話篇形式の哲学は不在) 


Nさん:プラトン対クセノフォンの問題第3章pp122-5。4章全体。第5章pp232-9。補論全体)
 

「哲学者/ソフィスト」プラトンにとって、ソクラテスの「良き教師像」を強調するクセノフォンは、より通俗的であるがゆえに、同時代的には支持される可能性も高かったのではないか?両者の『弁明』における死と魂の見解の相違について、どちらかがソクラテスの実像に近いか?


後世において、ソクラテス4部作が完全に残り、かつ一時はプラトンよりも「権威」であったクセノフォンが、結局は哲学史では周辺に追いやられた経緯。クセノフォンの現段階での評価再評価の可能性2プラトン対「ソフィスト」の問題 プラトン対「自然哲学者」補論,『ソフィストとは誰か?』
 

「哲学者/ソフィスト」プラトンは「弁論術」についての評価 
『パイドロス』において哲学は対話であり、書かれたものは評価しないソクラテス(=プラトン)であるが、他方で同時代の弁論家イソクラテスを評価する。「一対一」ないしは「一対少数」のディアレクティケーと「一対多数」のレートリケーの違い
「一対不特定多数」の著作と「一対特定多数」のレートリケーとの比較 
例デモクリトス等の「原子論者」プラトンやアカデメイア派
 

 

*Kさん: 第2章ソクラテスと哲学の始まり、p53ソクラテスの思索遍歴について変遷
3ソクラテスの記憶、p125からp129プラトンにおける「記憶と想起」、ディアレクティケーの本来的役割が像と実在的モデルの関係性にある。対話は像としての対話編である。

 

*Yさん:第6章「無知の知」を退けて 不知の自覚 P.293〜P.299 「不知/無知」の背反性

人間の本質、美の探求との関係性について

*Kさん:「弁論」と「哲学(ディアレクティケー)」言葉とロゴスについて 

*Yさん:日本語と哲学の問題 第6章P.279-283「「知る/思う」の区別 「不知の自覚」の「自覚」という言葉について

synoida/shopos

P.281「ソクラテスの自己了解のあり方」についての<自己了解>という言葉について

P.299「不知は絶えず「無知」へと転化しようとする〜」の部分の「自己の思いを限りなく限りなく透明にすること」のへ表現

Sさん:  クセノフォン関連 

(*クセノフォン関連は「哲学の誕生」第4章でも言及されており、今回もいくつか2月の時点で提題があったのですが、やむを得ない欠席などのため、今回はソクラテスをめぐる人々として、対話篇ソクラテス文学のひとつとして納富先生がプラトンの立場との差異やクセノフォンの特色などを説明いただいた。前半部と後半部それぞれにおいて)

*前回(2015年12月)の会進行運営の反省から、今回は事前に参加者のかたに質問や確認事項をあらかじめ2-3点あげていただいた。限られた時間と参加者の方、先生に対して質問や確認したいことがらを明瞭にする必要から。

後半部はこの事前の2-3点確認事項以外に、参加者のかた2,3名の方から発言をいただいた。(Mさん、M.Mさん、Kさん)



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もうすぐ発売されます。教科書にも採択できるミネルヴァ書房の書籍です。



今回のテキスト 2005年版(ちくま新書に補論が加わっている)

ぜひご一読いただきたい本です。





知の問題をテアイテトスともあわせて考えている折に、ソフィストとの関連が出てくるが、後半はこちらの先生の博士論文(原文は英語)を読んでいました。

プラトン 理想国の現在
納富 信留
慶應義塾大学出版会
2012-07-19





冒頭で入門書のうちの3冊のうちがこちら。ソクラテスに焦点をあてており、哲学の誕生(哲学者の誕生)とあわせてよむとより、とお話がありました。



サントリー学芸賞受賞のこの著作も単行本版と文庫版があり両方持っているが、ぜひ文庫でもお読みいただきたい本でもあります。



2015年夏に刊行された、岩波新書から史上二冊目のプラトン哲学の新書。
2015年12月、つまり前回はこちらをテキストに合評会を開きました。
(慶應義塾大学 研究室棟会議室にて)


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