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納富信留先生による1回講座、"トマス・モア 『ユートピア』を読む" に参加しました。

Firenzeルネサンスはエラスムスまではなんとなく関連して学んできたけれども、実のところ私も「ユートピア」を繙くのは初めてのことだった。ラテン語原文で書かれ、次に英語版がRobinson版として出たのも、マルシリウスの「饗宴註解」がラテン語からトスカーナ語版としてすぐに出たのも少し似ている。
そして時代は少し違うのだが、トマス・モアの「ユートピア」も広く西欧大陸で読まれたものである。
加えて、Ficinoの「プラトン的愛」がプラトニック・ラブという言葉となり、一人歩きしてしまったように、トマス・モアの「ユートピア」もまたその内実や内容を読まないまま、「なんとなく」広まってしまったものではないだろうか。

今日、日常用語として使われている「ユートピア」はどちらかといえば、「アルカディア」(アルカディアの牧人たち)に近いニュアンスではないだろうか。もっともフランス古典主義の有名な二コラ・プッサンの<アルカディアの牧人たち>では牧人たちがアルカディアでも「死」は存在する、「死をわすれるな Memento Mori」の警告を石棺からうけとるという場面なのだが。

このあるとするならば、いや「どこにもない」(まだかつて)島についての説明は、二巻目以降になされている。
一巻目および、報告のための手紙(の体裁)は文学構成として、把握して読む必要がある。
今回本文をよみはじめたときに、どのようなスタンスで読み始めたらよいものか、と当時のイギリス史と、トマスモア研究所のいくつか、年譜などを事前に調べて読んでみた。

納富先生のレジュメは7ページほどにおよび、プラトン受容に関しては、「ポリテイア」のギリシア語をご自身で翻訳したものをいれて説明して頂いた。




因みにラファエル ヒロスディの名前由来とされる、大天使ラファエルとトビアス。魚からとれる薬を求める道中の守護天使が大天使ラファエル様なんですね。
ほかの大天使はいきなり現れて秘密を告知したり、飛翔して武装して楽園追放の場面が多いミカエル様など、ラファエルと若者、旅の庇護者というのは派手な主題でもないが、重要であったでしょうね。なんとなく、翼をもち、空間移動すらマテリアに関係なく出現できる大天使なのに、トビアスの手をひき、自ら大地をともに歩くとは、ラファエル様の役割や当時のかたの心性に思いを馳せました。この作品は昨年の文化村でのボッティチェリ展に出品されました。


さて、モアの「ユートピア」思想は広範囲に影響をもっている。
ウィリアム・モリスもまたモアの思想に憧憬を描いていてそのようすは文献としても写真としてものこっている。
またフランスでの社会主義はよりモアの影響は近かった。この本は「マニュアル」ではなくきわめて技巧的、修辞的なレトリックを用いたもので、あそびの部分がある読物だと思う。
何よりも人間的であるかどうか、人間性が重視されることへの配慮が、モアの「ユートピア」の特徴であるかもしれず、それは人文主義を十分に継承している。

ピコ・デッラ・ミランドラのピコ伝、モアがギリシア語をまなんだ師が、Firenzeのアカデミア・プラトニカで学び帰国したこと、などイギリスにおけるルネサンス(まだ英語が確立していない)受容展開を学び、参加者との討議や質疑応答を含めて講座だった。
10時から15時までで途中1時間の休憩と小休止をはさんだ。
納富先生の講座は今後も美の哲学、ヘレニズムの哲学史などユース学生会員の方が受講料を安価に受けられる講座も豊富に用意されている。
今回も、美大在籍中の知人がぜひ受講したいということで参加した。

プラトン
岩波書店
1967-01-16




納富 信留
慶應義塾大学出版会
2012-07-19


講座終了後、納富先生はニューヨークから帰国されたばかりのハードスケジュールながら、参加した受講生やユース会員のかたとおよそ3時間時間をとってくださり、ギリシア語、翻訳の問題、ソフィステスの問題、当日のテキストであるトマス・モアの問題等、軽く食事をしながら談話会の時間を設けて下さった。

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カフェでフレンチトースト・スモークサーモン。ラタトイユ添えを。



2015年12月に慶應義塾三田キャンパス会議室にて、合評会を行った。
その後参加した方も、それを機に読み始めたという方もおり、ぜひ対話篇を決めて、あるいは、後半の章に絞って、あるいはパイドロス、ピレボス、テアイテトス、など焦点を絞った会を、と聞いています。
それまでには私のほうも、もう少し、ピレボスについて整理しなくてはならない。
ピレボス研究についての質問にも答えてくださいました。

朝日カルチャーでは、美のシリーズとして、哲学の美として、プラトンからプロティノスの1回講義が6月に予定されている。



プラトンを、哲学を、という方にはぜひこの筑摩書房の新書をお読み頂きたい。





トマス・モア
岩波書店
1957-10-07


講座レジュメの対応しているページ数はこちらの岩波版。


慶應義塾大学出版会
2015-10-29



納富先生がRobinson版の英語版、ラテン語版の書物も教室に持参くださり、現物をみることができた。