
ポッライウォーロの<貴婦人の肖像>が告知チラシやポスターに掲載されていますが、来日展示作品はこれだけではありません。ミラノの邸宅美術館の主要作品が80点。私的にコレクションされた中世、古代、エトルリアなどの甲冑なども含めたコレクションです。
観た中で特筆したい作品をいくつか羅列+ひとこと感想を。
絵画
アンドレア・ソラーリオ <アレクサンドリアの聖カタリナ>
ベルナルド・ダッディ<三連祭壇画>1340-50
(三連画や祭壇画は後の時代に分解されてそれぞれ売却されるというような悲劇も起きましたが、三連画として御使いの告知→厩での誕生→十字架にかかるイエス...とそのままの状態です)
タピストリー
かなり大型です、あまりなじみがないかもしれませんが、室内装飾において絵画よりもタピストリーが重視された時代がありました。(ヴァチカンのタピストリーの間が有名ですがあの空間にあるものくらいおおきく完成度が高いものが2つ。
FRANCISCVS SPIRINCIVS FECIT ANNO 1602
グリゼルダの物語の画家 <アルテミニジア>1498
本展の一つの目玉ではないでしょうか、ミラノでは聖カタリナと対に展示されているらしく本展でもそうなっています。1498年作、グレイの長衣と長身が目を引く静謐なアルテミジアです。マニエリスムの時代以前なのに、こうした等身で描かれるのは少し珍しい感じがします。
とても印象的な作品。テンペラ画。
ラファエロに帰属する十字架
表に描かれるのは 聖ペテロ、福音書記者ヨハネ、マグダラのマリア、聖母マリア
裏の描かれるのは 聖ルイ、聖フランチェスコ、パドヴァのアントニウス、聖フランチェスコ
聖ルイとパドヴァの聖アントニウスがラファエッロ(ラファエッロ工房)らしい表情。
聖クララはフランチェスコ派の聖女ですね...
そしてアレッサンドロ・フィリペピことアレッサンドロ・ボッティチェリ
<死せるキリストの哀悼>1500年ごろ
サヴォナローラ時代のフィレンツェ(虚飾の焼却)を経たあとの後記ボッティチェリの作品はナショナルギャラリーに多くありますが(あとシスティーナ礼拝堂のミケランジェロ作品と同空間にあるフレスコの大作連作)、この絵画はぜひ来日しているうちに観てもらいたいです。
キリストを支える二名の表情。言葉で書くと陳腐になるのでぜひ対峙してください。
アレッサンドロのことを考えると不思議な心もちになります。
フィレンツェのすばらしいところは、15世紀とほとんど町並みがかわらないため、例えばアルノ川沿いを歩いていていって、早朝でも夕暮れでもでこぼことした石だたみの道をあるく。
ほぼ同じ町並みと風景をアレッサンドロは歩いていたでしょう。
晩年は幸福とはいいがたい状態だったといいますが、なんともいえない気持ちになります。
そういう意味で、フィレンツェの街やローマの街は、死者と生者を包括する石の街なのです
続きを少し。
クラナッハ(父) 洗礼者ヨハネ〜無原罪の祈りの聖母、二人の天使
クラナッハはあまり得意な画家ではないのですが、この作品は良かった。
ピントリッキオの工房 <聖母子と幼い洗礼者聖ヨハネ>
トンド(丸い額の絵画/ウフィツィにあるミケランジェロのトンドを思い出してもらうとよい)はお祝いのために依頼されたり贈られる絵画。聖母子と聖ヨハネなので、やはり子どもが誕生したお祝いとしての作品ではないでしょうか。テンペラ画。1490年
バルダッサーレ・カスティリオーネ
『宮廷人』 活版印刷の本、1600年。1500年前後から写本と活版は同時に用いられていた。
あまりよくみえなかったけれども表紙裏の紙がマーブル紙だったようにみえた。
図録にはもっと詳しく本文のようすも載ってます。
カナレット <廃墟と古代建造物のあるカプリッチョ>
カナレットは遠景の風景画が多いイメージがありますがこの作品では、人物、風景、古代建築を配置した比較的近景を描いていて興味深い。理想的風景画=カプリッチョはもう一点、ジャンバッティスタ・ディエポロも展示されてます。
ガエターノ・ガンドルフィ<天使> 1764年
ペンと水彩で描かれたスケッチなのだが1764年には天使はこう書かれているというのをみるのも面白いです。マニエリスムの影響、ファサード装飾などにみられる横たわる構図。
天使がどのように描かれてきたか、12世紀あたりからみていくと絵画は面白いと思います。
(これは日本美術でもいえることですが、あるメジャーな主題がどう変容・受容されるのか、畏怖や聖性を喪失するのか、等)
最後のセクションにあった友人たちに囲まれた自画像もいい。
ジュゼッペ・モルテーニ <レベッカ>12世紀ウォルター・スコットの英文学をモチーフ(アイヴァンホー)。
アントニオ・フォンタネージ <風景>は作品に付されたコメントが絵画芸術について考えさせられる。
それからひっそりと、アンドレア・マンテーニャによる肖像画が展示されてます。
この時代のイタリア絵画を観るとき、マルシリオ・フィチーノ『饗宴注解』が書かれた年や、ロレンツォ・イル・マニフィコ暗殺等の時代性を思わず考えながら観ることが多い。
福音書記者の主題が描かれるのは、プロトルネサンス以前が多い。
賢人のイメージ・規範もまた変容するのだ。
図録は小佐野先生も書かれてました。
(かつてサンドロ・ボッティチェリやルネサンス期の古代再生に関する本はたくさん参考文献にさせていただいた。)
ぜひ絵画好きな方にはおすすめしたい展示です。
Bunkamra ザ・ミュージアム 2014.4月4日(金)から5月25日(日)

これは東急のディスプレイ。

裏面の写真を見ると展示内容がわかるかと思いますが、コレクションの質が高いので絵画だけでも大変充実しています。
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