明暗 (岩波文芸書初版本復刻シリーズ)
明暗 (岩波文芸書初版本復刻シリーズ) [単行本]


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社会学研究会の前に、夏目漱石に関連する絵画および作品を集めた展示(東京藝術大学美術館)に立ち寄りました。開催前から気になっていたものの、脚を運ぶ機会がなかなかなく、諦めていましたが、立ち寄れてよかったと思います。

漱石の原稿は初めてみました。デスマスク、漱石が描いた絵画等。
生涯に一つでも納得のいく絵画作品が描けたらよい、という手紙の言葉。

英国留学中に、同時代の絵画芸術を視て吸収しているところに感嘆する。
たとえば、意外ともともと調べていたものを確認する、という観点では同時代のものを吸収することはできない。象徴主義、ラファエル前派、また書籍とデザイン(アーツ&クラフツ)などを取り入れてこの時代はよく再現していたとあらためて感じた。しかも模倣で終わってはいない。

写真は私が10代後半の時に手に入れた、復刻版の「心」。
岩波で装丁復刻版が出ていた。


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漱石は絵画を作品に取り入れていた。小説上に出てくる虞美人草の屏風を再現した作品があったが、完成度が高ければこうした試みも面白いと思った。
しかし本物の酒井抱一の屏風は実に素晴らしかった。
酒井抱一をみると、バロックやグロテスク模様を日本画に取り入れたようなモダンさがある。
写実性との距離は、描く主体(抱一)の在り方が垣間見えるように思う。
草花を描いているのに、それに留まらない。


展示に行く目的は、ウォーターハウス、ミレイの絵画が出品されていることだったので、こちらも観られてよかった。ビアズリーのアーサー王も久々に書物の状態で観た。
今後もラファエル前派の絵画展は開かれていくことと思うが、ウォーターハウスはぜひ数年前のミレイ展ほどの規模で開かれてほしいと思う。

ウォーターハウスの「マーメイド」の絵画に添えられた解説はやや疑問が残った。
ある類似点があっても、それを間違いないと言い切ることはできないだろう。
文学解釈の上でも、美術解釈の上でも、類似による推測はあくまで推測であって、観るものの願望・予測しか根拠がないような批評はあまり望ましくないのではないか。
語るべきことは双方に多大にあるのに、「私にはこう思える、間違いない」というのは何も見ていないし、何も読み解いたことにはならない。わざわざ書いているのは、こうして文学との接点で展示が開かれるのは、歓迎なのだが、根拠のない私的感慨を連ねたものが「解説」になってしまう、こうしたスタイルが助長されるのは、画家にとっても作家にとっても読者にとっても、鑑賞者にとっても良いことがないからである。

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現在は建築物保存のため公開されていない奏楽堂。
空き時間は1時間半程度だったので、正直なところ展示に立ち寄れるかどうか?と思ったし、すべてをじっくり見られたわけではないのですが、やはりリーフレット等を見て、「観たつもり、知った作品のつもり」でいるのは間違いで、脚を運ばねばわからないこと、感じないことが多いと思った次第です。