「ある朝の十時ごろ、とてつもなく大きな握りこぶしが町の上空にあらわれた
やがて、爪をかざすようにゆっくりとひらいたかと思うと、破滅へと導く巨大な天蓋のごとく、そのまま少しも動かなくなった。石に見えたが石ではなく、肉の塊に見えたが肉ではなく、雲に見えたが雲でもない。
それは、神であり、この世の終わりだった。ざわめきが、しだいに泣き声や怒声となって町中にこだまし、ついにはひとつの凝縮したおぞましい声と化し、トランペットのごとく、高く鋭く響きわたった。
略
ルイザはわっと泣き出した。「わかってたの」としゃくりあげながら言った。
「いつかこんなことになるんじゃないかって・・・・・。
「最後の審判まであとどれくらいなんだ?」誰かが訊ねる。
すると情報通らしき男が時計をみながら「あと十分」と自信ありげに答えた。
「あと八分!」群衆のあいだから、、男の声が響いた。
司祭は、文字通り身体を震わせている。そしてわがままをいう子どものように,大理石の床で地団太を踏んだ。
「それで、私は?私は?」
司祭は、絶望にうちひしがれ、懇願した。この連中が、自分の魂を救済するチャンスを奪っているのだ。
どいつもこいつも悪魔に連れていかれるがいい!どうやってここから逃げだそうか。どうしたら自分のことを考えられるんだ?
・・・・・・・
(ブッツァーティ 「この世の終わり」 関口英子訳)
神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)
著者:ディーノ ブッツァーティ
販売元:光文社
(2007-04-12)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る
最後の審判のトランペットが吹き鳴らされる、この一文はクラウディオ・アバドが指揮をしたジュゼッペ・ヴェルディの「レクイエム」を彷彿とさせる。
リベラメを歌うのはアンジェラ・ゲオルギウ。
この名演奏は、死の淵を見て祈るような指揮をするアバドだからこそ可能だと思われる。
DVDにもなっておりリージョンフリーで国内再生可。
・・・・・
この世の終わりのすぐ直前のようなデジャヴを感じるのは、何か俯瞰的な・・・・(変な話だが、奇妙なことにこれはAKIRAのAKIRA覚醒の直前の静かな朝のようなもの、体験していないにもかかわらず、なぜか、原子爆弾が落とされる(誰がこのような権利を有するのか)何も知らぬ者たちの痛み、苦しみ・・・それすら感じられないほどの瞬間的な抹殺、抹消、あるいは、傷を負い生き延びたものたちの苦痛・・・・
さて、私はこの司祭の気持ちが半分以上判るような気分になるのだが、
私はこの名状しがたい自己嫌悪と詩的できわめて短いこれら短編に対して共感し、それを省みる。
短編集は原書からさらにセレクトされたものだが日本語で読めることが有難い。
やがて、爪をかざすようにゆっくりとひらいたかと思うと、破滅へと導く巨大な天蓋のごとく、そのまま少しも動かなくなった。石に見えたが石ではなく、肉の塊に見えたが肉ではなく、雲に見えたが雲でもない。
それは、神であり、この世の終わりだった。ざわめきが、しだいに泣き声や怒声となって町中にこだまし、ついにはひとつの凝縮したおぞましい声と化し、トランペットのごとく、高く鋭く響きわたった。
略
ルイザはわっと泣き出した。「わかってたの」としゃくりあげながら言った。
「いつかこんなことになるんじゃないかって・・・・・。
「最後の審判まであとどれくらいなんだ?」誰かが訊ねる。
すると情報通らしき男が時計をみながら「あと十分」と自信ありげに答えた。
「あと八分!」群衆のあいだから、、男の声が響いた。
司祭は、文字通り身体を震わせている。そしてわがままをいう子どものように,大理石の床で地団太を踏んだ。
「それで、私は?私は?」
司祭は、絶望にうちひしがれ、懇願した。この連中が、自分の魂を救済するチャンスを奪っているのだ。
どいつもこいつも悪魔に連れていかれるがいい!どうやってここから逃げだそうか。どうしたら自分のことを考えられるんだ?
・・・・・・・
(ブッツァーティ 「この世の終わり」 関口英子訳)

著者:ディーノ ブッツァーティ
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最後の審判のトランペットが吹き鳴らされる、この一文はクラウディオ・アバドが指揮をしたジュゼッペ・ヴェルディの「レクイエム」を彷彿とさせる。
リベラメを歌うのはアンジェラ・ゲオルギウ。
この名演奏は、死の淵を見て祈るような指揮をするアバドだからこそ可能だと思われる。
DVDにもなっておりリージョンフリーで国内再生可。
・・・・・
この世の終わりのすぐ直前のようなデジャヴを感じるのは、何か俯瞰的な・・・・(変な話だが、奇妙なことにこれはAKIRAのAKIRA覚醒の直前の静かな朝のようなもの、体験していないにもかかわらず、なぜか、原子爆弾が落とされる(誰がこのような権利を有するのか)何も知らぬ者たちの痛み、苦しみ・・・それすら感じられないほどの瞬間的な抹殺、抹消、あるいは、傷を負い生き延びたものたちの苦痛・・・・
さて、私はこの司祭の気持ちが半分以上判るような気分になるのだが、
私はこの名状しがたい自己嫌悪と詩的できわめて短いこれら短編に対して共感し、それを省みる。
短編集は原書からさらにセレクトされたものだが日本語で読めることが有難い。
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