4/29のパリ・オペラ座学校公演、クラスレッスン見学について、続いては公演について。本当に素晴らしい公演でした。

ノイマイヤーの「ヨンダーリング」はローザンヌのコンテンポラリー課題でもありますが、今回オペラ座の第6学年の生徒たちの公演をみて、初めてこの振付の意匠が「解った」気がした。
ノイマイヤーがベジャールと異なるのはあくまでも「主体」としての人間、人間中心的近代観が揺らがない境地からの、ドラマ性や精神性であって、神話やギリシア的時間感覚、地中海的な反規律性にはむかわないのだが、しかし人の内面性をドラマとして描くのは優れているし、「生き続ける運命の人間像」にはどこまでも迫っていくものがある。

この場合、「死すべき運命の人間達」という近代以前の主題とはそもそもテーマとフィールドが違うことが重要。

「ヨンダーリング」は本当に素晴らしかった。
まだ若い国だったアメリカと成長段階にあり優れた素質をもって努力しつづけている生徒達がじつによく重なる。
「ヨンダーリング」が極めて白人的なテーマと踊り手を必要とするあざとい部分も実に忠実だった。
映画オクラホマ的なスピリッツがモダンな切り口となっていて、内面性に裏付けられる丁寧な表現、高い身体能力。
ほんとうに、この演目は、極めて少数の能力の高い生徒達(ダンサー)でなければ、踊ることができないし、現象させることも不可能だと思う。

つまり動きやパだけをトレースしても、また独自的な解釈を加えすぎても「ヨンダーリング」というバレエにはならない。ノイマイヤーの振付の「意図」を理解した上で、踊りそのものは、その人の、世界の中で唯一の「自己」を表さなければならない。それが重なったとき、ノイマイヤーの作品がはじめて生まれ、呼吸し始め、他のどのようなジャンルの芸術がなしえない「芸術」となる極めてレベルの高いものだということだ。それがオペラ座学校の生徒たちを通じて見事に表現されていた公演だった。

ノイマイヤー自身も、この演目は「プロには踊らせない」と云っている通りだと思う。

「スカラムーシュ」は思っていたよりもずっと面白い作品だった
と同時に、この作品を等身大の子供達に作り上げたジョゼ・マルティネスは凄いと思った。実はあまりジョゼ・マルティネスは凄いと思ったことはなかったのだが、22分でこれだけのものを魅せてくれるのは凄い。
そして「スカラムーシュ」の存在が素晴らしい。
ジョゼ・マルティネスのことばを引用しておきたいと思う。

「このバレエの中で、スカラムーシュは、そのスペインの起源に忠実に、夢の世界への一種の”渡し守”、子どもたちに演劇とダンスを教える妖精となっています」

こうした外部的存在をさりげなく添えている部分がまた素晴らしい。
その役や年長組の最も素晴らしいダンサーが優しさをコミカルな部分をもって演じ、彼自身もまた学校で学び、学校を去る生徒であって、年少の10歳や13歳の子どもたちの「渡し守」となっている。フィナーレ近くで、リズミカルな音楽とともに子供達が踊りながら、華やかな金色のクラッカーが舞台に打ち上げられるのをみて、いいようのない感銘をうけてしまった。この場面はちょっと言葉ではいいつくせないものがある。

決して難しいテクニックはみせていない、しかし引き込まれてしまう。
スモークがたかれた舞台奥とドンナ役の生徒が見せる一つ一つのポーズ、ひたむきな透明といえるほどの表情。
バレエとは、メソッドではなく、やはり韻文詩のもつ豊かさのようなもので、見えない部分で「魅せてしまう」ところがある。
フランスは、いつの世の中も、文学、哲学、絵画、言語、舞踏は極めて接近している文化をつくりだしているのだが、年少組の演目をみてもそれがよくわかる。

スカラムーシュ役を踊った年長組の生徒エティエンヌ・フェレールがヨンダーリングも踊ったのが彼は本当に素晴らしいダンサーだと思う。

クラスレッスンはバーレッスンとセンター、合わせて1時間半、午後の公演は3時から5時半までと1日中オペラ座学校の生徒たちをみていたことになるのだけれど、本当に素晴らしい1日だった。

オペラ座学校は、バレエ学校でありながら、バカロレアも必ず合格させる。おそらく、現在の水準だったら学問的にも修士2年くらいの内容をマスターさせている+舞踏+音楽性...世界にこんな学校があること自体が奇蹟的なのだが、その基盤は教師たちのパトスと努力、教育理念とひたすらの実践、伝統の継承とはそういう地道なものなのだと思った。


年長組の生徒で目に付いた人
エティエンヌ・フェレール、
ピエール・アルチュール=ラヴォー

年少組で目に付いた人
ウジェニー・ドリオン
パブロ・レガザ

バーレッスンのとき上手いな、感じがいいなと思っていた生徒が5人くらいいるのですが、名前と一致させられていません。

久し振りにエリザベット・プラテルを観られて、やはりプラテルファンとして感激でした。 昨年のエトワール・ガラ、その前のルグリと輝ける仲間たち公演、オペラ座の「ル・パルク」などをみた後と同様の余韻が残っている。
色々な感慨をもって、東京文化会館を後にした。
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「白鳥の湖」はアニエス・ルテステュ、ジョゼ・マルティネスが、「ラ・バヤデール」はローラン・イレール、イザベル・ゲラン、エリザベット・プラテルが、ドキュメンタリー映画「エトワール」ではパリ・オペラ座学校(クロード・ベッシー校長時代)の様子も観られます。