ルネサンスとは19世紀にフランスでなずけられたために定着した言葉ですが、そもそもはリナシタ。

先日NHKフィレンツェとルネサンスについての番組が再放送されていたのですが、ルネサンスの幕開けがマザッチョの絵画からというのはある意味では正しいけれど、厳密にいうと少し違う。
日本ではどうしても美術=絵画という認識が強いのですが、ルネサンスの幕開けは、ギベルティとブルネレスキによる洗礼堂扉の彫刻コンクールです。
いえ、その番組でドゥオーモを紹介したときにも15世紀の建築家という一言で終わっていたので、ブルネレスキの名前をどうしても挙げたくなるのですね。コンクールでゴシック的な美が支持されたためにギベルティにやぶれ、ローマで古代石積み建築を独自に学んだ後、フィリッポ・ブルネレスキがあのサンタ・マリア・デル・フィオーレのドームを完成させた話は、アルベルティの「絵画論」の冒頭の文と同じく感動的なエピソードだと思うのでちゃんと説明してほしかった....何も知らずに、大聖堂の壁に落書きをするような人がでないためにも、きちんと扱ってもらいたいです。

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写真は聖ヨハネ洗礼堂。フィレンツェの守護聖人もヨハネです。
ファサードとジョットの鐘楼を背にした位置から撮影。
ペストが流行し、社会的外国的にも決して安寧な時代でなかったからこそ、市民が参加してコンクールを行ったという経緯があります。
(ドゥオーモも屋根の工事もコンクールで決められて造られましたが、この完成までのエピソードはとても興味深い)

放送された中では「商人」という言葉で語られていましたが、すぐにイメージされる商人とはちょっとニュアンスが違うと思います。現代で言うところの実業家的・企業家的なニュアンスでとらえるべきだと思います。クワトロチェント(15世紀イタリアでは、そういう人たちが私財を投じていったのがフィレンツェ美術と建築の遺産。
それは現在の私的「所有」や「消費」ではないのですし...
同業者組合についても語らないと、ルネサンスの特徴がつかみづらい。彫刻についていえば、それまでの浮き彫り彫刻から、古代ローマ以来丸彫り彫刻(360度の造形)が復活したのもルネサンスの大きな特徴でしょう。ドナテッロのブロンズ彫刻「ダビデ(メルクリウスともいわれる)」と聖ゲオルギウス(大理石彫刻)が素晴らしい。

番組の後半で、レオナルドとラファエロについては語られていましたが、見事にミケランジェロについてはスルーされていたのも...やはり日本人にとっての美術がとりわけ「絵画」であって、フィレンツェでのミケランジェロの仕事は彫刻と建築、ローマではフレスコという特徴からなのでしょうか。
以前「芸術センター」誌内に掲載されていた記事で、レオナルドは「万能の人」「科学主義」と持ち運び可能な「タブロー」(キャンパス絵画)の芸術家・自然科学の祖として現代の「展示会」向きだが、ミケランジェロは建築と一体化した彫刻や建築と空間、大規模な壁画など「持ち運びできないビジネス向きではない」から現代では軽視されてしまっているというのを読んだことがありますが、まさにそうだという思い。
少なくとも18世紀まではある種”万能”でない人は、活躍できなかったように思います。
多面的な人が求められ、人間像としてそうあるべきだとされていたので、個々の分野も発達したのでしょう。個人的には19世紀以降、分野の細分化と専門化によって方法知が進展したことと同様にあるいはそれ以上に語られるべきなのではと思うことが多いです。
レオナルドは、アルベルティが「絵画論」で述べた絵画を完成の域に導いたといわれる面が大きく、実践者であるというべき。

私物としてのアートとパブリックな市民意識の上に成り立つアート、その違いも大きい。つまり、誰もがアクセス可能な、広場や教会、市庁舎などに美術が求められたこと、そこに市民が参加したという意味を重視したい。
そして誰もがアクセス可能という意味には、誰もに求められる作品・建築保護のモラルということが前提になっていることも重要だと思う。


フィレンツェ―初期ルネサンス美術の運命 (中公新書 (118))
著者:高階 秀爾
販売元:中央公論新社
発売日:1966-11
おすすめ度:5.0
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パトロンたちのルネサンス―フィレンツェ美術の舞台裏 (NHKブックス)パトロンたちのルネサンス―フィレンツェ美術の舞台裏 (NHKブックス)
著者:松本 典昭
販売元:日本放送出版協会
発売日:2007-04
おすすめ度:4.0
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△1フィオリーノ金貨の価値と芸術家たちに支払われた金額などから更に、ルネサンスを解読していて大変興味深い本。あっという間に読めてしまう愉しさと情報量の多さ。

ミケランジェロ (岩波 世界の美術)ミケランジェロ (岩波 世界の美術)
著者:アンソニー ヒューズ
販売元:岩波書店
発売日:2001-09
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△テキスト・写真ともに良質で、空間や細部、質感が伝わるオールカラーの写真。
実物を見たくなる作品、メディチ家礼拝堂やシスティーナのフレスコの色彩も鮮明+自然。このシリーズはとても良いのでぜひとも揃えたい本が多いのですが、在庫切れも多く本当に残念..

絵画論
著者:レオン・バッティスタ アルベルティ
販売元:中央公論美術出版
発売日:1992-10
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アルベルティが最初ラテン語で書き、その後、トスカーナ語(イタリア語/日常言語)で書いた絵画論。ブルネレスキにあてた文には、ドナート(ドナテッロ)、マザッチオの名も挙げられている。リナシタ(ルネサンス/古代の復興・復活)(技術・知識・方法・文学・哲学)の意義と自覚が現れている文章、遠近法についての記述とても印象深い...