10/27の東京大学公開講座のテーマは動物行動学、マスメディア社会、学生のこころの問題。

動物行動学の森先生の話はまず、現代のソロモン王の指輪は「科学」であるというお話から始まった。ソロモンはその指輪の能力によって動物と自由に会話・コミュニケーションができたという話だが、現代では科学の発達によってそれが可能であり、動物行動学ではそれを目指しているという紹介。今日は主に犬の行動学と成熟、人間との共通点についてお話された。犬は狼と多くの共通点があるが、狼はある成長段階をすぎると心の扉が閉ざされてしまう、つまり警戒心が強くなる。一方犬は大人になっても好奇心が失われず、学習しつづけることができるという。犬はネオテニー(幼い部分の残して大人になる)を特質にもつ動物である。
学習は常に好奇心と柔軟な学習態度が重要だと感じることが多いので、この点でも人間との共通点を感じた。
これは個人的な考えだが、ヤスパースによれば人間の思考のきっかけは「驚き」「限界状況の認識」(もう一つは「疑い」)が重要だとされる。驚きとは、未知のこととに限らない。自分が置かれている環境や状況に気がつき、「驚く」ことが学習のきっかけ、動機になる。「何かに驚ける」というのは重要なことで、それは、「違い」がわからなければ驚くこともないからである。違い・差異というのは、認識がなければわからない。そういった自分の中の発見や驚きのベースを培うことが重要だと思う。
話が逸れてしまったが、動物行動学の立場では、もっとも効率よく「教える」ことは、「褒めること」で、罰を科すべきではないというのが最新の考えだという。プラスを高めることのほうが、結果的にマイナス点を改善できるというもので、このデータは今後人間の心理学的な面でも活用できるのでは、と森先生も話されていたのが興味深かった。

そのほかにも、犬の社会性の高さや人間との共通点のお話があり興味深かった。本塾では、今も昔も獣医師希望、獣医学部進学希望の生徒がとても多い。皆共通しているのは中学生時代からその志が高く、内なる動機をもっている生徒が多いことで、そういった意欲の高い中高生が多い。そんな理由もあり、森先生の話はとても興味深かった。パワーポイントの資料には、森先生によるイラストもふんだんに使われていて、パワーポイントの無味乾燥になりがちな画面がとてもハートフルだった。
森先生が警告していたのは、動物を親近感をもってみるのはよいが、擬人化してはいけないということ。彼らの能力や感覚機能は人間とはことなり、感覚世界を共有していると思うのは間違いである。動物には我々よりも広範囲に世界を認識している部分もあれば、我々とは違うところもある。能力や性質を正しくとらえ、人間の認知している部分を絶対と思わないことが、大切だと改めて感じた。

一つ気になったのは、やはり大学専門科目を学ぶ際には、倫理的、歴史認識や社会認識(法的なものも含む)が必要だと感じた。この部分を視野にいれなかったり、デフォルメすることがないことが望ましいと思う。高校では選択科目になりがちな社会系の分野は、「現状認識」のベースになる部分であり、大きな流れで学べるのは中学時代が基礎になる。


マスメディアのテーマでは、ロイター通信社から東大情報学環で教えている林先生が、現在の日本のメディアとジャーナリズムの問題点とネット社会について問題提起と説明があった。自由≠放縦ではない、自由を行使するためのルールつくり、そして情報の質を判断できることの大切さ、討論空間の有無。「自由の敵は消極的な市民である」というキーワードが印象的だった。これは消費社会とメディア、公共性と私化という問題にも関わる。今回はそこまではとりあげられてはいなかったが、メディアと個人、メディアと権力、消費と個人とメディアの問題は切り離せないテーマである。林先生の「日本のメディアは消費者としてしか個人をみなしていない部分がある」という指摘が興味深かった。
ネット普及による問題も多いが、可能性も多い。解りやすい講演だったと思う。


学生のこころの問題については、学生相談ネットワークの佐々木先生が説明された。大学院重点化の中で、東京大学の特に大学院生の生活は大変にハードである。
人文系でも長いひとで12時間、薬学や医学などではおどろくべきことに18時間を越えて研究室につめているという人も多いという。
大体、多くのことを成して進学する先では更に多くのことをこなさなければならないのはどこでも同じだとは思うが、やはり大変だと思う。一方で、就職などは分野にとっては厳しい状況でもあり、日本は専門知識が適切に活かされることが少ない社会だと改めて感じる。年齢など一般的な基準で就業の可能性が閉じられてしまうことも、柔軟かつ合理的とはいえない(と思う)。
この講演では普段詳しく知ることがない、学部生や修士の院生について聞くことができた。
ほかにも世界的に14歳から17歳の間、もっともこの時期の子供(若者)かかるのはメンタルな部分でのケアである。医療費のデータからそのことが紹介された。
この時期は成長過程でもあるから、メンタル面で変化が大きい時期でもあるのは当たり前のことで、それを個人の問題としてだけとらえ、切り捨てたり無視するのはやはり問題だと感じている。
レジュメの中で書かれていたが、24時間の時間サイクル、つまり「生活の24時間化」は「世界基準と思われるかもしれないが、意外と世界でも限られた国でしか行われておらず、そもそも人間の体にとって無理のある生活習慣」であるという。
それは本質的には誤った方向での「成熟」であると紹介されていた。

公開講座は一般と高校生、大学生向けの入門から最先端の研究についてまでわかりやすい形で行われている。高校生や大学生が参加しやすい日曜の午後などに実施されると良いとも感じます。

公開講座は、東大TVというwebTVでも公開されている。昨年のブログでも書いた藤原帰一先生や、高山博先生の公開講座がコンテンツとして視聴できます。