以前に、「ヒストリエ」という漫画にでてくる1頁をとりあげて、質量と形相、およびテクネー(技術)の話とたとえになかなか適して描かれている、という旨の記事を書いたことがある。(ときどき参照されているようで、ありがとうございます。)

このところ重い本を外出時に持って歩くのは困難なので、一冊だけ文庫か新書をもって電車にのるようにしている。キケロー、プラトン、ディオゲネスの哲学者列伝、プロティノス「美について」それから毎月送られてくる「三田評論」、こういった重くなく情報量が多く、次の読書につながる・・・という本を携えて外出する。

最近、自分の薄い本がだんだんレパートリー不足になったので(私の蔵書は厚い本が多いのだ!)家人の中沢新一を拝借することにした。9月終わりに「幸福のいくつかの断片」(「源氏物語夢浮橋」の会場が遠いので!)読んでいたのもこれに関係する。

回りくどくなったが、「ヒストリエ」で書かれたいたことを中沢新一も説明していて面白い、言いえて妙だと思ったので少し引用しておきたい。


 まず技術をあらわすテクノロジーという言葉は、ギリシア語の「テクネー」がもとになっている。だがこのテクネーという言葉は、私たちが今日テクノロジーという言葉で表現しようとしているよりも、はるか深く、また広い内容を表そうとしていた。(ハイデッガー談)中略。
 まずテクネーは古典ギリシアでは、アレテイア(アレーテイア)という言葉とごく近いところにあると考えられていた。アレテイアは「隠れてあること、隠れてあるもの=レイテア)を「否定する=ア」という意味をもった言葉だ。略。これはとうぜん隠されありう真理をあらわにしようとする哲学や、自然のなかに隠れてあるピュシス(Physis)の働きをあらわにする行為である芸術などとも、深いつながりのある言葉だということがわかる。
(p.200)

テクネーは、隠れてあるものをあらわにあばく、隠されてあるものを出で来たらす、ような行為の全体性をさす言葉なのである。それは単に、職人のたくみな腕前や手の技や上手に考案された道具類をあらわにしているのではない。職人の手技や道具などを媒介にして、人間には「テクネー」することを通じて、なにか隠されてあるものをあらわなものに出で来させようとするのだ。

中沢のテクネーへの言及は、古代ギリシアとキリスト教世界の違い、日本の・・とやや蛇行しながら語られるが、最初のテーマに近い「変成の技」という箇所をもうすこし見てみたい。

「もっとも職人的な技が、これが(変生の技)。彼らは、文字通り物質の変成のプロセスにかかわっている。しかしそれは単に、物質のひとつの状態が別の状態に変化をあおこすということではない。職人は、この変化の技にたずさわりながら、その変成過程において、物質のなかに隠されてあるピュシスを一瞬間だけ、この世界に裸のままであらわにしてみせるのだ。鋳物師が鉄分をふくんだ岩石を溶かして、何かの胴部をこしらえようとする。そのとき、鉱物が溶けて、まっ赤な液状の金属のなかから道具として役に立つ何かのかたちが鋳出されるまでのわずか時間、職人たちは、いまだにどんな物質携帯にも所属していない、金属のたましいのようなものに触れるのだ。

中略

「変成の技にとりくむ人々は、それよりもはるかに強烈な自然の力に触れなければならない」(p.214)

質量と形相、この二つで語れるものは質量が「死に体」であるのに対し、形相によって「もの」になる(ここまでがエウメネスと工房の職人で語られていたこと)この作品には、透明なガラス(博物学か化学の実験につかうガラスの入れ物)がでてくる。「ヒュアロス(ガラス)がある、こんなにたくさん」とペルシアの女将軍がつぶやくシーンもあるが、ヒュアロスは先にかたった変成の技の当時的最先端のひとつであろう。

「変成の技」は一瞬だけ、物質化された自然のなかに、「隠されてあるものを、あらわにし」「すぐさまこれを、他の物質の形態のなかにおし隠していく、そのマジカルなプロセスに決定的な関与を行うのである。(P.215)


我々はものにかこまれものを使って生活するが、「よいもの」「わるいもの」とは何か。
イデア分有とヌースと尺度の問題は私の中のテーマだが、料理をしながらであるとか、何か空間を刷新しなくてはならないとかいろいろ質量と形相を考えるわけです。必須か必要でないか、についても。

エウメネスのコマはなかなかわかりやすいと思っていて、中沢氏のこの「技術のエコソフィアへ」を読んだら思い出し、少しまとめておきたくなった。飲み物としては「幸福の断片」のほうが面白い。「イコノソフィア」と比べてもイコノソフィアのほうが面白いとは思う。このテキストがのっているのは「ゲーテの耳」です。

すべてが面白いとはいえないが、YMOとアジアの音楽、都市の交差点と坩堝なども面白かったからまた読書日記でも。








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