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テーマは地中海。古代ローマ時代模刻大理石像などはおそらく他にも感想記述があると思うので、オリエント関連について少々書き留めておきたいと思います。
オリエントの神話はローマの成立を考えるとき、または西洋古代史を学ぶ際にも見過ごせないのですが、今回はヘレニズムの展示のほかにオリエントのセクションがあったのが興味深かった。ローマがなぜ帝国を成立させられたのか、それは多宗教主義だったからであるともいわれれている。今回の展示でバァル神像があったが、バァルはローマでは受け入れられなかった信仰の一つで、その理由は子どもの生贄に拒否反応があったからだと言われている。聖母=地母神、子=イエスと考えていくと、幼子の聖性化というのはこのあたりからも関連づけられているのかもしれない。ローマの神殿はキリスト教化した後に教会になり、その多くはキュベレ信仰などもあったようだ。マリア信仰はカトリックが主に対して、正教会ではソフィアになる。
展示を見ていて、気が付くのはおそらく、「いきなり十字軍になる」ということだろうが、それは地中海文化圏がアラビア語圏に移るからにほかならない。
さて、あたりまえに西洋文化の起源は地中海とギリシア・ローマだ、というストーリーは自明のものではない。文明としての「ギリシア」がそもそも東西(ここにオリエンタリズムの問題が関わってくる)のどちらの起源かというのも...一度は説いたうえで、そしてヘレニズムや汎ギリシア主義と合わせて考えてみるべきなのだろうと思うのだが....(近代オリンピックが提唱された時代が国家主義成立と無関係でないことは多少は気に掛けるべきである)
あまりネガティブなことを言っていても仕方がないのだが、ルーヴルの古典主義のフロアにはゆっくり行ってみたいけれども、この辺りの作品は来日することはないのだろうと思いながら。

ディアナの大理石像はマントから察するにディアナなのだろうと思ったし、コントラポストのフォルムは古代彫刻の特質を備えていた。アウグストゥス像も然り。と、同時にヴァチカン彫刻展のことを思い出すと今となってはなぜあのような企画が大々的に開催された(しかも、作品の充実度の割に空いていたのでより充実していた)のが奇蹟に思えてくる。
作品価値の高い展示が行い難い状況になっているのだろうか...価値的なものよりも、よりマーケティングの結果から行われるような状況にあるのだろうか、などと思うことが増えている。

展示物の中では、前300年のガラス器が感慨深かった...イスラーム美術も独立した部門として構成されていてよかったと思う。今後そうした機会が増えるとよい。
それからコンスタンチノポリスのパノラマ、グランド・ツアー時代のローマの風景画。現在ではおそらく写真が代用されてしまうのかもしれないのだが、実はこうした美術と記録の中間にあるような作品はとても興味深い。
だから、おそらく私小説(得意な分野ではないのだけれども)などの価値というのは、長い目でみれば写実主義的なものなのかもしれない。または、寓意のような普遍性を現代的に書き表すとか...カラバッジョの絵画がたとえばその当時の流行や世相を歴史画ジャンルで表わしたように...!)

夏の間中は混雑していてとても観られないだろうと思っていたのだが(都美術で実際に混雑と休める場所が限られているために鑑賞どころではなかったことが多々あるため...)会期終了間際の平日にようやく行けたのだがやはり混雑していた... 正直なところ、自分の体調の問題で展示に行くのに脚が遠のいている...

<プロメテウスの伝説が刻まれた石棺>は、精巧かつもはや浮彫とはいえない造形、浮彫は丸彫り彫刻とは異なる技術の高さが要求されるとはわかっているのだが、それだけに素晴らしかった。イルカのモザイク画(<イルカと戯れるアモル>)が興味深かった。ルネサンス時代にヴェロッキオがイルカと少年像を作っているけれども、これもルーツは古代なのだ。ところでクピドとアモールは同一視されていくが、プットーとクピドがこのモザイク画からほぼ同一視されているように思われた。むしろ、プットーとは何を指すのだろう?因みに、天使は姿がないもの〜青年像〜少年像〜女性化〜プットーと同一視、という視覚的な変化がある(13世紀から19世紀)要するにだんだんと力が剥奪されていくのだが、これはおそらく上位中間層(力および知識)の領域・空間が想像されなくなっていく過程なのかもしれない...その結果(サブカル的なことを言えば)、現代の日本では「天使」=「ピュアかつ邪心なく可愛い」的な意味を持って使われる言葉になっているようだけれども、基本的には、マザッチオの<楽園追放>のように剣をもって追い払うものであったり、ケルビムのようであったりと厳格さゆえに人気(というと語弊があるが、対象として考えられた)があったのだ...が、おそらくはこの今日的な傾向もプットーと天使が同一化されはじめたころなのだろう、などと思った。

本当の「古代ギリシア」美術や学なども今日ようやく本来的に研究されているようなので、改めてこれを機会に調べ直したいと思った展示だった。(アテネ中心以前のギリシアについてはそれでもなかなか解明するのが難しい、というところで理解が止まっているので...)

フィレンツェを訪れた際、考古博物館にも行ったがここは考古(エジプト、エトルリア)に多少関心があれば必ず行くべき場所。エトルリアはローマ以前の文明だがルネサンス-古代ローマを多少掘り下げるとエトルリア、エジプト、環地中海にまで関心が...(広がる一方なので限定が必要になるのですが、関心は広がるので仕方がない...)




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出品リスト、今回は日本語/英語版とフランス語版の2種。
ミュージアムショップでも展示限定のものがいくつかありました。
(というよりも、都美術のミュージアムショップは展示に即したものが多く集められているので、普通にプチギフトを探すのも良いです。西美と同じでショップ利用はいつでもできますので。東博のミュージアムグッズはとてもよいのですが入場しないと入れない)
2点以上購入でムンクの叫びキャンディ頂きました。(写真)


ギリシア美術 (岩波 世界の美術)
ナイジェル スパイヴィ
岩波書店
2000-12-22


古代オリエントの歴史
小川 英雄
慶應義塾大学出版会
2011-04





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